01先に結論:判断を分けるのは作れるかどうかではない
内製に向くかどうかは、次の4つでおおむね決まります。作る技術があるかどうかは、この中に入っていません。ツールが肩代わりできる部分だからです。
| 確認すること | 向いている | 向いていない |
|---|---|---|
| 直し続ける人 | 作った人以外にも中身を触れる人がいる、または引き継ぐ前提で作れる | 作れる人が1人しかいない。その人の本業は別にある |
| 業務の変わりやすさ | 現場の都合で頻繁に変わる。外に頼むと待ち時間が長すぎる | 手順が安定していて、数年変わっていない |
| 扱う情報 | 社内の担当者しか見ない情報にとどまる | 顧客の個人情報、支払いや契約に関わる情報を含む |
| 止まったときの影響 | 半日止まっても手作業で代替できる | 止まると請求や出荷が止まる |
右側に当てはまる項目が多いほど、内製そのものをやめるという話ではなく、範囲を狭める、外部と組む、そもそも作らない、といった選択肢を先に検討する価値が出てきます。以降ではその順番で見ていきます。
「作れた」と「使い続けられる」は別のこと
AIに指示すれば動くものはできます。ただし業務システムは、作った瞬間ではなく、その後の数年で評価が決まります。制度が変わる、取引先が増える、担当者が代わる。そのたびに手を入れる必要があり、手を入れられなくなった時点で、その仕組みは負債の側に回りやすくなります。最初に見積もるべきなのは作る手間ではなく、直し続ける手間のほうです。
02数十名規模では、内製はまだ広がっていない
小さい会社ほど内製化は進んでいません。情報処理推進機構(IPA)の「DX動向2025」(2025年2月から3月に実施)では、システム開発の内製化について次の結果が出ています。この設問に答えたのは1,500社で、うち従業員100人以下が405社です。
| 回答 | 従業員100人以下 | 全体 |
|---|---|---|
| 内製化を進めている | 11.1% | 22.3% |
| 必要な部分は内製化済み | 13.6% | 16.7% |
| 既製のサービスを使うので進めていない | 22.5% | 22.5% |
| 外部開発を今後も利用予定 | 38.0% | 29.3% |
従業員100人以下では、外部に任せる前提の会社が最も多いという結果です。AIで作れる範囲が広がる前の時点の調査である点には注意が必要ですが、出発点としては押さえておく価値があります。この調査の2026年版に内製化の設問はないため、現時点ではこれが最新の数字です。
背景には担当者の問題があります。中小企業基盤整備機構が2026年3月に公表した調査(2025年11月から12月に実施、有効回収1,668社)で、ITやAIの導入・活用を推進する人材について尋ねた設問(回答1,568社)では、「特定の担当者はおらず、経営者・現場従業員が個別に推進している」が85.9%、専任担当者がいる企業は3.0%でした。内製を検討する立場の人も、多くは本業を持ちながらの兼任だと考えられます。
先ほどのIPAの調査で、内製化を進めている企業(回答334社)に課題を聞いた設問では、「人材の確保や育成が難しい」が82.3%で、2番目に多かった「新しい技術への対応が難しい」の48.8%を大きく上回っていました。内製で先に足りなくなるのは、ツールや技術ではなく人だということです。
03まず「作らない」を検討する
作ると決める前に、作らずに済む道が2つあります。実務では、ここで止まるほうが結果的に安く済むことが少なくありません。作らなければ、直し続ける手間もそもそも発生しないためです。
その作業自体をやめる
手作業が発生しているとき、その作業が本当に必要かを先に確かめます。誰も見ていない定例の集計、二重に入力している台帳、念のため続けている転記。自動化してしまうと、必要かどうかを問い直す機会が失われ、無駄な作業が仕組みとして固定されがちです。まず回数と時間を測るところから始めるのが安全です。月に何回発生し、1回あたり何分かかっているか。これが後の判断材料にもなります。
手順を既製のサービスに寄せる
勤怠、経費精算、請求、顧客管理といった、どの会社にもある業務は、既製のサービスが充実しています。自社の手順に合わないという理由で自作を選ぶ前に、手順のほうを既製品に寄せられないかを検討する価値があります。既製品を使えば、法令や制度の変更にはサービスの提供者が対応するのが一般的です。自作した場合、その対応は自社の担当者の仕事になります。
見分ける目安は、変わる頻度と事業への影響の大きさです。頻繁に変わり、事業への影響も大きいものは、外に頼むと待ち時間が響くため、自分たちで持つ意味があります。逆に、決めごとが固まっていて変わりにくいものや、制度への対応が中心のものは、既製のサービスに任せたほうが手が空きます。全部を自分たちで抱えるのではなく、変わりやすいところに絞るという考え方です。
受託する側から見ても、作らないほうがよい相談はある
当社は業務システムの受託開発を行っていますが、相談の中には「それは作らないほうがいい」とお伝えするものがあります。既製のサービスで足りる場合、作業自体をやめられる場合、そして作った後に社内で誰も面倒を見られないことが最初から見えている場合です。作ること自体が目的になると、使われないまま保守だけが残ります。
04作ると決めた場合、どこから手を付けるか
最初に手を付ける対象は選べます。判断の目安は、影響が及ぶ範囲の広さと、間違えたときに気づけるかどうかです。
| 観点 | 先に手を付ける | 後回しにする |
|---|---|---|
| 使う範囲 | 1つの部署の中で完結する | 複数の部署や社外の相手が使う |
| 扱う情報 | 社内の集計や進捗の管理 | 顧客の個人情報、口座や支払いの情報 |
| 他の仕組みとの関係 | 単体で動く | 会計や販売管理と数字を突き合わせる |
| 間違いへの気づきやすさ | 見ればおかしいと分かる | 気づかないまま数か月流れる可能性がある |
顧客の個人情報を扱う仕組みを自社で作る場合、作った後に続ける管理が増えます。誰がアクセスできるかを決めて制限する、利用の記録を残す、責任者を決めて定期的に点検する。個人情報保護委員会が示している指針にも同じ趣旨の項目が並んでいます。加えて、退職者のアカウントを止めることも、決めた制限を実際に効かせるうえで必要になります。既製のサービスなら提供者が担っている部分が、自作すると自社の仕事になると考えて負担を見積もると外れにくくなります。
なお、全部を自社で作るか、全部を外に出すかの二択で考える必要はありません。日本情報システム・ユーザー協会が上場企業を中心に行った調査(2025年9月から10月に実施、有効回答957社、この設問の回答は953社)では、内製と外部委託を使い分ける方針の企業が約7割を占め、完全に内製化する方針は4.5%にとどまっています。工程ごとの分け方や外注先の選び方はシステム開発の外注先の選び方にまとめています。
05費用はツールの月額では決まらない
主要なノーコードツールの料金は、公式情報では次のとおりです。金額は改定されることがあるため、契約前に各社の料金ページで確認してください。米ドル建てのものは、1ドル160円として計算した目安を添えています。
| ツール | 料金 | 注意点 |
|---|---|---|
| kintone スタンダード | 1人あたり月1,800円(税抜) | 10人分からの契約。月18,000円(税抜)が実質の下限になる。年契約でも割引はない |
| Microsoft Power Apps Premium | 1人あたり月2,998円(税別、年払い) | Microsoft 365に付いてくる範囲でもアプリは作れるが、社内に置いてあるデータや一部の外部サービスにつなぐには、有料プランが必要になる |
| Google AppSheet Core | 1人あたり月10米ドル(約1,600円) | 多くのGoogle Workspaceのプランに追加費用なしで含まれる。ただし会計や販売管理など他の仕組みのデータを直接つないで使うには、上位のプランが必要 |
| Bubble Starter | 1つのアプリにつき月29米ドル(約4,600円)から。年払いの場合で、月ごとの支払いは月32米ドル | 利用者数ではなくアプリ単位。処理量に応じた追加料金が発生することがあるため、使う人が増えたときの金額を先に確認しておく |
10人で使う場合、ツール代は年間で5万円台から36万円程度まで幅があります。利用者数で課金するものと、アプリ単位で課金するものがあるためです。すでにGoogle WorkspaceやMicrosoft 365を契約している会社であれば、追加費用なしで始められる場合もあります。ここまでは各社の料金ページを見れば分かります。問題は、この表に載っていない費用のほうが大きいことです。
いちばん大きい費用は、担当者の時間
兼任の担当者が作る場合、その人の時間が費用です。人件費を時給3,000円とすると、最初の構築に80時間かかれば24万円、その後も月10時間の手直しが続けば年間36万円になります。ツール代より人件費のほうが大きくなる計算です。これは目安であり、業務の複雑さで大きく変わりますが、見積もりの桁を掴むには使えます。
見落としやすいのは、この時間が本業から引かれるという点です。総務や経理の担当者が作る場合、その分の本来の業務は誰かが引き受けるか、後ろにずれます。稟議に出す金額としてはツール代しか見えないため、実際の負担が社内で共有されないまま進むことがあります。最初に「月に何時間使う前提か」を決めて共有しておくと、後の判断がしやすくなります。
新しく契約する前に、いま使っているものを確かめる
ツールを新しく契約する前に、すでに契約しているサービスに同じ機能が含まれていないかを確かめる価値があります。Google Workspaceには業務アプリを作るためのGoogle AppSheetが多くのプランに含まれ、Microsoft 365にも、プランによってはアプリを作る機能が付いています。ただし他の仕組みとデータをつなぐ場合など、上位のプランでないと使えない機能もあるため、やりたいことが決まってから確認するのが確実です。
06やめるときに持ち出せるものは、ツールで大きく違う
始める前に確かめておきたいのが、やめるときのことです。どのツールも入力したデータは取り出せるようになっていますが、作った仕組みそのものの扱いは大きく違います。
取り出せることが多いもの
- 入力したデータ(表計算ソフトで開ける形式)
- 画面に表示していた一覧や集計の結果
- 自社が選んだ保存先に置いたファイル
残らないことがあるもの
- 作った画面や処理そのもの
- 添付したファイル(通常の書き出しに含まれない場合がある)
- 解約から一定期間で消えるデータ
公式情報で確認できる範囲では、次のような違いがあります。どれが良い悪いという話ではなく、性質が違うので、扱う情報と使い続ける年数によって選び方が変わります。
| ツール | やめるときの扱い |
|---|---|
| kintone | 入力したデータは表計算ソフトで開ける形式で書き出せる。添付したファイルは通常の書き出しには含まれない。解約日の翌日から30日後にデータが消える |
| Bubble | 入力したデータは書き出せる。ただし作った画面や処理は他の環境に移せず、移行する場合は作り直しになると公式が説明している |
| Google AppSheet | 入力したデータは、Google スプレッドシートなど自社が選んだ保存先に置かれる仕組み。ツール側にあるのは、作った画面や処理の設定 |
| Microsoft Power Apps | Excelへの書き出しに対応。一度に書き出せる件数に上限がある(10万件) |
実務上の要点は2つです。1つは、入力したデータがどこに置かれるかを契約前に確かめておくこと。もう1つは、添付ファイルや解約後の保存期間のように、必要になってから気づく条件があることです。契約前に、解約したらどうなるかを一度読んでおくと、後の負担が軽くなることがあります。
07作った人がいなくなった後に起きること
内製でよく聞くのは、作った直後ではなく1年から3年後に出てくる問題です。作った人が異動や退職でいなくなり、中身が分かる人が残っていない状態になります。
IPAが2018年に公表した「システム再構築を成功に導くユーザガイド」の第2版は、担当者の異動や退職は長く使うシステムほど避けられず、業務の知識が断片化するのは必ず起きる事象だと述べています。ノーコードで作った仕組みも例外ではありません。むしろ、作るのが簡単な分だけ、記録を残さないまま数が増えやすいという面があります。
現場の担当者が自分で作れるようになると、中身が分からなくなる、作る人によって出来がばらつく、誰が何を作ったのか把握できなくなる、といったことが起こりやすくなります。作る人に任せきりにせず、作ったものの一覧を持ち、増やすときの手順と、使われなくなったものを止める仕組みを決めておく必要があります。情報システムの担当部署がない会社では、この役割を誰が担うのかもあわせて決めておきます。
作りながら残しておくもの
後から作るのは難しく、作りながらなら手間が小さいものがあります。次の4つは、担当者が代わったときに効きます。
- 01作ったものの一覧。名前、目的、使っている部署、作った人、扱う情報の種類を1行ずつ書いた表で足ります
- 02なぜそう作ったかのメモ。手順書ではなく、判断の理由を残します。後任が変更してよいかを判断できる材料になります
- 03止まったときの連絡先と代替手段。誰に聞くか、動かない間どうするかを決めておきます
- 04アカウントの管理者を2人にする。1人だけだと、その人が不在のときに何も変えられなくなります
1つめの一覧が効きやすいと感じています。作った本人がいる間は不要に見えますが、いなくなった後に「何がどこで動いているのか」を調べ直す手間は、作り直しに近い労力になります。増えるたびに1行足す運用にしておけば、負担は小さく収まります。
08始める前に決めておく5つ
小さく始めて、続けるかどうかを後で決められる形にしておくと扱いやすくなります。着手前に決めておきたいのは次の5点です。
- 01対象を1つに絞る。困っている業務のうち、止まっても半日耐えられるものから選ぶ
- 02担当者が使ってよい時間を決める。月に何時間まで充てるかを、本人と上長の間で合意しておく
- 03扱う情報の線を引く。顧客の個人情報や支払いに関わる情報を入れるかどうかを最初に決める
- 04やめるときの条件を決める。使われなかったら止める、担当者が代わったら見直す、という基準を先に置く
- 05作ったものの一覧を用意する。1行目を書いてから作り始める
4つめは特に効きます。使われない仕組みが残り続けるのは、やめる判断をする人が決まっていないことが多いためです。何を作るかを決める工程についてはシステム開発の要件定義の進め方が参考になります。IT運用全体で最低限やっておくことは情シスがいない会社のIT運用にまとめました。
止める判断も最初に決めておく
始めるときに「どうなったら止めるか」を決めていないと、使われているかどうかが曖昧なまま契約だけが続きます。3か月後に判断すると決めておけば、試すこと自体の心理的な負担も下がります。止めるのは失敗ではなく、対象の選び方が合っていなかったという情報が得られた状態です。
09よくある質問
Q. ノーコードなら、本当に知識がなくても作れますか?
画面を作って動かすところまでは、知識がなくても進められることが多くなっています。難しさが出るのは、複数の情報をどう結びつけるかを決める部分と、間違ったデータが入らないようにする部分です。コードを書く手間が減っても、何に困っているのかを正しく捉え、解決の方法を決め、作って、試して、直すという流れは変わりません。触ってみる分にはすぐ始められますが、業務で使い続けるものは、作った後の手間を見込んでおくのが安全です。
Q. 作ったものが増えすぎたらどうすればよいですか?
定期的に棚卸しをして、使われていないものを止めるのが基本です。年に1回でも、一覧を見ながら「これは今も使っているか」「作った人はまだ社内にいるか」を確認すると、放置されたものを見つけられます。増えること自体が問題なのではなく、誰も把握していない状態が問題です。止める判断をする人をあらかじめ決めておくと、実際に止められます。
Q. 個人情報を扱う業務システムを自社で作ってもよいですか?
作ってはいけないということはありませんが、作った後に自社で続ける管理が増えます。アクセスできる人を限定する、誰がいつ使ったかの記録を残す、退職者のアカウントを止める、責任者を決めて定期的に点検する、といった運用です。既製のサービスであれば提供者が担っている部分が自社の仕事になる、と考えて負担を見積もってください。扱う件数が多い場合や、他社から預かった情報を扱う場合は求められる水準が変わることがあるため、判断に迷う場合はその部分だけ外部に相談する方法もあります。
Q. 内製を始めてみて、うまくいかなかった場合はどうなりますか?
早い段階でやめる分には、損失はツール代と担当者の時間にとどまります。痛手が大きくなるのは、使われていないまま何年も契約が続いた場合と、業務が完全に依存した後で誰も直せなくなった場合です。だからこそ、始める前にやめる条件を決めておくことをお勧めしています。また、一度内製を始めたら外部に頼めなくなるわけでもありません。試作までを自社で行い、業務で本格的に使うものは外に出すという分け方もあります。自分で作ったものがあると、何を作りたいかを言葉にしやすくなるという利点もあります。
この記事を書いたチーム
合同会社TokyoScaler ビジネス開発部
Google Cloud Partner(Google Workspace正規代理店)として、中小企業・スタートアップのIT環境整備・DX・AI導入を支援するメンバーが、現場の知見をもとに執筆しています。