01全体像:フルセットで整備する場合の8ステップ
情シス部門を持つ会社が環境を立ち上げる場合の、一般的な整備項目から見ていきます。まず「全部やるとしたらこうなる」という地図です。
- 01独自ドメインの取得
- 02法人メールの開通(Google Workspace / Microsoft 365 など)
- 03アカウント設計(1人1アカウント・グループアドレス)
- 04セキュリティの初期設定(2段階認証・パスワード管理)
- 05PCの調達・初期設定の標準化
- 06業務SaaSの選定・導入(会計・勤怠・チャットなど)
- 07IT資産管理台帳の整備
- 08セキュリティポリシー・利用ルールの明文化
設立直後のスタートアップがこの8つを同時にやるのは、時間的にも資金的にも現実的でないことが多いです。そこで、創業支援の現場で実際に使っている「最初の1ヶ月」の時系列に組み直したのが次のセクションです。
02最初の1ヶ月のスケジュール
1週目:ドメイン・法人メール・アカウント(土台)
最優先はドメインの確保です。登記済みならco.jp(年3,000〜5,000円程度・法人の実在確認があるため信用度が高い)、こだわらなければ.jpや.comならより安価に取得できます。次にGoogle Workspace等を契約して独自ドメインのメールを開通させます。Business Starterなら月800円/人(年契約・税抜)で、14日間の無料試用中に設定と動作確認まで済ませられます。
アカウントは必ず1人1アカウントで発行し、info@などの窓口はグループアドレス(追加費用なし)で受けます。そして以降、SaaSや銀行、行政サービスへの登録は、個人のメールアドレスではなくこの会社アカウントで行うようにします。個人アカウントで登録したサービスは、その人の退職時にアクセスを失うトラブルの定番だからです。
2週目:セキュリティの既定値を作る
2段階認証を管理コンソールから全社に強制します(追加費用なし)。人数が少ない今のうちに「既定でオン」にしてしまえば、以降に入社する人は最初からその状態で始まります。あわせてパスワードマネージャーを会社契約し、サービスごとに使い回しのないパスワードを自動生成する運用に切り替えます。
3〜4週目:メールの信頼性とPC
ドメインにSPF・DKIM・DMARCを設定します。Gmailなど主要メールサービスは送信ドメイン認証を送信者への要件として強化しており、未設定だと自社からの営業メールや請求書が相手の迷惑メールに入りやすくなります。PCについては、私物利用(BYOD)で始めた場合も、遅くとも最初の採用までに会社所有・ディスク暗号化・画面ロックを標準にした調達へ切り替えることをおすすめします。
03採用が始まる前に仕込む「スケール前提」の3つ
ここからがスタートアップ特有のポイントです。急成長する会社のITで差が出るのは、人が増える前にどれだけ「増えても回る形」を作れたかで、後から直すほど作業量が膨らむ傾向があります。
- 入退社フローを1枚に書いておく — 入社時に発行するアカウント・貸与するもの・退職時に止めるものを箇条書きにするだけで、採用が月数名ペースになっても対応が属人化しにくくなります
- SaaS選定の基準に「Googleでログイン」対応を入れる — 認証をID基盤に寄せておくと、入退社時の処理が一括になり、退職者のアカウント消し忘れも起きにくくなります
- データは最初から共有ドライブへ — 個人のマイドライブやローカルに業務データを置く習慣がつくと、後からの移行に手間がかかります。プロジェクトのデータ置き場を共有ドライブに決めておきます
04逆に、今はやらなくていいこと
営業を受けると必要に感じがちですが、数名のフェーズでは優先度を下げてよいものもあります。限られた資金は事業に使ってください。
| 項目 | 検討し始める目安 | 理由 |
|---|---|---|
| MDM(端末管理ツール) | PCが10台を超えた頃 | それまでは標準設定の統一と台帳代わりのスプレッドシートで足りることが多い |
| UTM・社内ネットワーク機器 | 固定オフィス+常駐人数が増えた頃 | クラウド中心の働き方では守れる範囲が限定的 |
| 高機能なワークフロー・CRM | 運用する業務プロセスが固まった頃 | プロセスが未確定のうちは設定のやり直しになりやすい |
| セキュリティポリシーの文書化 | 10名前後になった頃 | 少人数のうちは口頭+1枚のルールで回る。形骸化した文書より実効性重視 |
05チェックリスト(コピペ用)と費用感
- 01独自ドメインを取得する(会社名義・会社の支払い方法で)
- 02Google Workspace等を契約し、独自ドメインのメールを開通させる
- 031人1アカウントを発行し、info@等はグループで作成する
- 04SaaS・銀行・行政サービスは個人メールではなく会社アカウントで登録する
- 052段階認証を全社に強制する
- 06パスワードマネージャーを会社契約する
- 07SPF・DKIM・DMARCを設定する
- 08PCは会社所有・暗号化・画面ロックを標準にする
- 09入退社時の対応フローを1枚にまとめる
- 10SaaS選定基準に「Googleでログイン」対応を入れる
費用の目安は、ドメインが年1,000円台〜(co.jpは年3,000〜5,000円程度)、Google Workspaceが月800円/人〜で、5名なら月4,000円台から法人メールと共有基盤が揃います。パスワードマネージャーを足しても月1万円前後に収まるケースが多く、PCを除けば創業期のIT基盤に大きな初期投資は必要ありません。
06まとめ
- 1週目はドメイン・法人メール・1人1アカウントの土台づくりに集中する
- 外部サービスの登録は最初から会社アカウントで。個人アカウント登録は退職時トラブルの定番
- 2段階認証とパスワード管理は人が少ないうちに既定化すると楽
- 採用前に「入退社フロー1枚」「SSO対応を選定基準に」「データは共有ドライブへ」を仕込む
- MDM・UTM・ポリシー文書化などは成長後でよい。5名なら月4,000円台から始められる
当社では、この記事の内容を丸ごと代行する創業期向けサービス「DX for Startups」を提供しています。法人設立前の準備段階からのご相談も歓迎です。
07よくある質問
Q. 会社設立の前に始められる作業はありますか?
ドメインの確保は設立前でも可能です。co.jpには設立前の仮登録制度があり、取得から6ヶ月以内に登記情報を提出して本登録します。社名が決まった時点でドメインを押さえておくと、設立直後からメールを開通できます。
Q. 費用はどのくらい見ておけばよいですか?
PCを除くと、ドメインが年1,000円台〜(co.jpは年3,000〜5,000円程度)、Google Workspaceが月800円/人(Business Starter・年契約・税抜)が基本セットです。5名で月4,000円台、パスワードマネージャーを足しても月1万円前後が目安です。
Q. 創業者1人の段階でもここまでやる必要がありますか?
独自ドメインのメール・会社アカウントでのサービス登録・2段階認証の3つは、1人の段階でもやっておく価値があります。最初の採用が決まったときに、この土台の有無で受け入れ準備の手間が変わります。入退社フローなどは、採用が視野に入ってからで問題ありません。
Q. 設立から何年も経っている会社ですが、この記事の順番でやり直すべきですか?
既に動いている会社の場合は、ゼロから作る順番ではなく現状の棚卸しから始めるほうが安全です。使っているサービス・アカウント・データの所在を洗い出したうえで、不足している土台から段階的に移行します。進め方はDX化の始め方の記事で詳しく解説しています。
この記事を書いたチーム
合同会社TokyoScaler ビジネス開発部
Google Cloud Partner(Google Workspace正規代理店)として、中小企業・スタートアップのIT環境整備・DX・AI導入を支援するメンバーが、現場の知見をもとに執筆しています。