01迷ったら、この3つのどれかから始める
AIに任せる業務を「効果の大きい順」に並べると、上位に来るのは受注処理や請求処理です。毎日動いていて止められない業務なので、1件目でここに手を入れると、失敗したときの戻し作業で本業が止まります。
ただし、経理や受注を諦めるという話ではありません。自分で作らず、すでに使っている会計ソフトや販売管理システムに載っているAI機能を使う道があります。詳しくは後の章に書きました。
1件目に選ぶべきは、結果が使えなくても書き直せば済む業務です。具体的には次の3つが候補になります。どれも社内で完結し、金額に触れず、出てきたものが期待どおりでなければ捨てられます。
| 試す業務 | 1件目に向く理由 |
|---|---|
| 打ち合わせメモの要約と、次にやることの抽出 | 毎週発生する。出力が悪ければ自分で書き直すだけで終わる |
| 社内からの問い合わせへの回答案づくり | 送る前に人が読む工程が入る。規程や手順書を根拠として渡せる |
| 長い資料やメールの要約 | 元の文章が手元に残る。要約が的外れでもすぐ気づける |
3つのうち、いま毎週やっているものを1つ選んでください。やっていないものを選ぶと、試す機会が来ないまま終わります。
02今日30分で試す手順
打ち合わせメモの要約を例に、今日できる手順を書きます。使うのは会社で契約しているAIサービスの画面だけで、開発は要りません。
- 01直近の打ち合わせメモを1つ用意する。他社に出せない内容が含まれる場合は、会社として契約しているサービスを使う
- 02いまその要約に何分かけているかを書き留める。体感で構わない
- 03下の指示文を貼り、続けてメモを貼って実行する
- 04出てきた結果を自分で直す。直すのにかかった時間も書き留める
# メモ
(ここに打ち合わせメモを貼る)
# 指示
あなたは社内の打ち合わせメモを整理する担当者です。上の「# メモ」に書かれていることだけを使って、社内共有用の要約を作ってください。この要約はそのまま社内に共有します。メモにない内容が混ざると、決まっていないことが決まったと伝わってしまいます。
# 出力の形
次の3つの見出しで書いてください。
1. 決まったこと
2. 決まらなかったこと
3. 次にやること
「次にやること」は、メモに担当者が書かれているものだけ名前を添えてください。該当する項目がない見出しには「記載なし」と書いてください。この指示文が何をしているか
適当に書いた指示文との違いは5つです。どれも各社の公式ドキュメントが勧めている書き方に沿っています。自分の業務に合わせて書き換えるときの手がかりになります。
- メモを先頭に置いている。Anthropicのドキュメントは、2万トークンを超えるような大きな資料を扱うときは、指示や質問より前に置くよう勧めています。打ち合わせメモはそこまで長くないので差は小さいはずですが、貼る場所を毎回そろえておくと、貼り忘れや貼り間違いに気づきやすくなります
- 見出しで区切っている。指示・資料・出力の形を分けて示すと、どこまでが指示でどこからが資料かを取り違えにくくなります。同社はXMLタグを例に挙げていますが、目的は区切ることなので、Markdownの見出しでも同じ働きをします
- 冒頭で役割を与えている。役割を1文添えるだけでも挙動が変わるとされています
- なぜそうしてほしいかを添えている。「社内にそのまま共有する」と理由を書くほうが、禁止だけを並べるより意図が伝わります
- やってほしいことを書いている。「推測しないでください」ではなく「書かれていることだけを使ってください」と書きます
5つ目がとくに効きます。生成AIは、資料に書かれていない部分をそれらしく埋めることがあります。埋められた文章は一見きれいなので、読み流すと気づけません。「記載なし」と書く先を用意しておくと、埋める代わりにそこへ落ちます。
見出しの記号は付けてよい
指示文にMarkdownの見出し記号を使うことに問題はありません。区切りが目に見えるほうが、貼り間違いにも気づきやすくなります。ただし、指示文の書き方は返答の書き方に影響することがあるとされています。出力に記号を付けたくない場合は、記号を使わずに「メモ」「指示」とだけ書いても働きは変わりません。
AnthropicとGoogleは、いずれの公式ドキュメントでも、例を添えることを勧めています。Anthropicは3〜5個を挙げています。思ったとおりの形にならないときは、過去に自分が書いた要約を良い例として貼り、同じ指示を出してみてください。
1回でうまくいかなくても、指示文を1文ずつ足して3回ほど試してください。3回試して形にならない工程は、いまのところ向いていないと判断して次の候補に移ります。
032件目からは、業務を工程に割って選ぶ
1件目で感触がつかめたら、自社の業務から候補を出します。ここで「請求書の処理」「問い合わせ対応」といった業務名のまま考えると、任せられるかを判定できません。同じ業務名の中に、任せてよい工程と任せてはいけない工程が混ざっているためです。
割る目安は、入力から受け渡しまでを一文で言い切れる大きさです。「経理業務」では大きすぎます。「受け取った請求書から金額と日付を読み取り、確認用の一覧に並べる」まで来れば判定できます。一文で言えないうちは、まだ割り足りません。
書き出しは1週間分でよい
全社の業務を網羅しようとすると数か月かかり、たいてい途中で止まります。まずは担当者1人が、直近1週間にやった作業を思い出せる範囲で書き出してください。1〜2時間で終わります。網羅性は1本目を動かしてから広げるほうが、結果的に早く済みます。
創業して間もない会社で決まった手順がまだない場合は、書き出しから始めなくて構いません。直近2週間で2回以上繰り返したやり取りを1つ思い出すところから始めてください。手順が固まらないうちに業務フロー図を作り込んでも、来月には形が変わります。
任せやすい
- 文章の下書き、要約、言い換え
- 決まった形式への変換
- 大量の文章からの抽出、分類、仕分け
- 翻訳、用語の統一
- たたき台の案出し
扱いにくい
- 最新の事実の確認
- 正確な計算、金額の集計
- 根拠を渡していない社内ルールの判断
- 毎回まったく同じ結果が求められる処理
- 責任を伴う最終判断
右側が不可能というわけではありません。計算は表計算ソフトに任せる、社内ルールは規程を根拠として渡すといった手当てをすれば扱えます。ただし作り込みの手間が増えるため、最初の数件には向きません。
04取り消せる工程かを、4つの問いで判定する
「ミスの影響が小さい業務から」と書かれていても、影響の大きさをどう測るかまでは示されないことがほとんどです。次の4つに分けると、その場で判定できます。
| 問い | 任せやすい側 | 最初は避ける側 |
|---|---|---|
| 社外に出るか | 社内だけで完結する | 取引先や利用者に直接届く |
| 金銭が動くか | 金額に触れない | 支払い、請求、値引きが確定する |
| 後から直せるか | 書き直せば済む | 送信済み、登録済みで取り消せない |
| 記録が残るか | 何を入力して何が出たかを追える | 履歴が残らず、原因を追えない |
4つとも左側なら候補です。右側が1つでもあるなら、そこを人が持つ形に組み替えられないかを先に考えてください。「顧客へのメール返信」は右側ですが、「返信の下書きを作る」まで縮めれば左側に移ります。
記録が残るかを軽く見ない
4つのうち最後の1つは見落とされがちです。何を入力して何が返ってきたかを残していないと、うまくいかなかったときに原因を追えません。原因が分からないままだと、次に何を直せばよいかも決まりません。最初は入力と出力を表計算に貼り付けておくだけで足ります。
05部門別に見る、任せやすい工程
少人数の会社で候補に挙がりやすい工程を、部門ごとに並べます。いずれも社内で完結する下書きか仕分けで、結果が使えなければ書き直せば済むものです。
| 部門 | 任せやすい工程 | 人が持つ工程 |
|---|---|---|
| 経理 | 請求書から金額と日付を読み取って一覧にする、科目の候補を出す | 承認、記帳、支払いの実行 |
| 総務・人事 | 社内規程を根拠にした問い合わせの回答案、募集要項の下書き | 労務の判断、社外への回答の確定 |
| 営業 | 商談メモの要約、次にやることの抽出、提案書のたたき台 | 見積もりの金額、値引きの判断、送信 |
| 問い合わせ対応 | 問い合わせの仕分け、よくある質問への回答案の作成 | 顧客への返信、クレームの一次対応 |
| 広報・採用 | お知らせや記事の下書き、原稿の言い換え | 公開の判断、事実関係の確認 |
左の列だけを見ると物足りなく感じるかもしれません。ただし最初に確かめたいのは削減時間ではなく、自社の文章と用語をAIがどこまで扱えるかです。ここが分かると、次の判断が速くなります。
06AIに任せる前に、2つの関門を通す
候補が残ったら、AIに任せる前に2つ確かめてください。ここを飛ばすと、なくてよい作業を自動化することになります。
- そもそもやめられないか。誰も読んでいない報告書や、形だけ残っている確認の手順は、自動化ではなく廃止が正解です
- 既製品で足りないか。使っているサービスの設定変更や、表計算ソフトの関数で済む場合があります
会計ソフトのAI機能を先に確認する
2つ目がとくに効くのが、請求処理や受注処理のような、金額に触れる業務です。1件目には向かないと書きましたが、諦める必要はありません。自分で作るのではなく、すでに使っているサービスに載っている機能を使う道があります。
会計ソフト、販売管理、経費精算のサービスには、請求書や領収書の読み取り、仕訳の候補出しといった機能が標準で載っていることがあります。まずはお使いのサービスの機能一覧と、料金プランに含まれる範囲を確認してください。追加費用なしで使えるものが眠っている場合があります。
同じことを自分たちで作るより、この道のほうが手堅くなります。金額の読み取りは、間違えたときの影響が大きい工程です。自分たちで作ると、制度が変わったときに直すのも自分たちの仕事になります。法改正への対応を提供元が続けているサービスなら、そこは任せられます。長く使うほど、この差は開きます。
確認するときに見るところ
読み取った結果を人が確認してから確定できるか、確認せずに登録される設計になっていないかを見てください。この記事の4つの問いでいう「後から直せるか」に当たります。あわせて、読み取り件数の上限と超えたときの料金、法改正への対応が追加費用なしで受けられるかも確認しておくと、後から想定外の請求になりません。
受託開発をしている立場から書くと、当社に頼まなくてよいケースははっきりあります。汎用のAIサービスに貼り付けて済む作業、表計算の関数で足りる集計、既存サービスの設定変更で済む通知は、外注すると費用のほとんどが打ち合わせに消えます。
逆に、複数のサービスをまたいで動かすものや、担当者が代わっても止まらない形にしたいものは、作り込みの判断が要ります。ここは外に出す価値があります。
07同時に進める本数は、担当者の時間で決まる
候補が5つ残ると、まとめて着手したくなります。ただし同時に進められる本数を決めるのは、効果の大きさではありません。担当者が週に出せる時間です。ここを見ずに3本並べると、どれも中途半端なまま2か月が過ぎます。
| 推進役が週に出せる時間 | 同時に進める本数 | 進め方 |
|---|---|---|
| 1〜2時間 | 1本 | 1つの工程に絞り、毎週の記録だけ残す |
| 3〜5時間 | 1本 | 1本を進めながら、次の候補の工程を割っておく |
| 6時間以上、または担当が2人 | 2本まで | 性質の違う2本にする。似た2本は判断材料が重複する |
兼任の担当者が週に出せる時間は、思っているより少なくなります。会議の準備や割り込みの対応が入るためです。実績が読めないうちは、少なく見積もっておくほうが安全です。
08うまくいったら、任せ方を段階的に上げる
「人が最終確認をする」で止まっている解説は多いのですが、実務で問題になるのは、いつまで全件を確認し続けるのかです。確認が永久に続くなら、担当者の作業は減りません。
上げる条件は、件数と修正の回数で決めておくと判断が揺れません。当社で目安にしているのは「直近30件で人による修正が1件もなければ次の段階へ」「修正が3件を超えたら1つ下げる」といった形です。件数は業務の発生頻度で変わるため、そのまま当てはめる必要はありません。
大事なのは数字そのものより、動かす前に線を引いておくことです。後から決めると、うまくいっている印象に判断が引きずられます。
「自動で実行」まで上げてよいのは、4つの問いがすべて左側だった工程だけです。社外に出るものと金銭が動くものは、件数を重ねても「承認したら実行」で止めておいてください。
09やめる基準を先に決めておく
やめる条件を決めていないと、成果が出ていない取り組みほど「もう少し続ければ」で延命します。消えるのは担当者の時間です。次のどれかに当てはまったら、一度止めてください。
- 30日たっても、担当者の作業時間が測れる形で減っていない
- 確認や手直しにかかる時間が、元の作業時間を上回っている
- 使っているのが担当者1人だけで、ほかの人が誰も触っていない
- 毎回指示文を書き直しており、型として固まらない
やめるときに困らないよう、元の手順は消さずに残してください。紙の帳票、表計算のファイル、手順書はそのままにして、AIを使う流れを横に足す形にします。置き換えてから戻すのは、たいてい始めるより手間がかかります。
見送った業務は、消さずに日付をつけて残しておいてください。AIの性能も料金も変わります。半年後に見直すと、当時は無理だったものが候補に戻ることがあります。
選定でつまずくのは、特別な事情がある会社だけではありません。商工中金が2026年3月31日に公表した調査(2025年12月19日から2026年1月16日にかけて実施)では、生成AIの導入・推進における課題や導入しない理由を複数回答で尋ねています。回答企業全体で最も多かったのは「具体的な活用場面が不明」で35.6%、次いで「導入を推進する人材がいない」が32.0%でした。調査の対象は商工中金の取引先で、3,892社が回答しています。止まっている原因はツールの性能でも価格でもなく、自社のどこに当てるかを決められないことにあるとうかがえます。
10まとめ
- 迷ったら打ち合わせメモの要約から。今日30分で試せる
- 指示文に「書かれていないことは推測せず、記載なしと書く」を入れておく
- 始める前に元の作業時間を測る。直しにかかった時間も一緒に測る
- 2件目からは業務名ではなく、一文で言い切れる工程まで割ってから選ぶ
- 社外に出るか、金銭が動くか、後から直せるか、記録が残るかの4つで判定する
- AIに任せる前に、やめられないか、既製品で足りないかを通す
- 同時に進める本数は、担当者が週に出せる時間で決まる。兼任1人なら1本
- 任せ方は4段階。上げる条件と、やめる条件を先に決めておく
工程に割るところを一緒にやってほしい、あるいは残った候補が既製品で足りるかを見てほしいという場合は、お問い合わせからご相談ください。どのツールを使うか、どこまで入力してよいかを先に決めたい場合は、会社でのAIツール導入の始め方と生成AIの社内ルールをご覧ください。
11よくある質問
Q. ITに詳しい社員がいなくても、任せる業務を選べますか
選べます。この記事の判定は、業務を工程に割ることと、社外に出るか、金銭が動くか、後から直せるか、記録が残るかを見ることで進みます。どれも業務を知っている人のほうが正しく答えられる内容で、技術の知識は要りません。むしろ実務を知らない人が選ぶと、現場で誰も使わないものが残りがちです。
Q. 業務の書き出しにはどれくらい時間がかかりますか
全社を網羅しようとすると数か月かかり、たいてい途中で止まります。担当者1人が直近1週間の自分の作業を書き出す程度なら1〜2時間、工程に割るのに1時間ほどが目安です。網羅性は1本目を動かしてから広げるほうが早く済みます。
Q. 創業したばかりで、書き出す業務がまだ固まっていない場合はどうすればよいですか
業務フローを作り込む必要はありません。直近2週間で2回以上繰り返したやり取りを1つ選び、そこから始めるのが現実的です。手順が固まらないうちに仕組みを作り込むと作り直しが増えるため、まずは汎用のAIサービスに貼り付けて試す範囲にとどめてください。
Q. 効果が出るまでどれくらいかかりますか
業務と規模によります。社内向けの下書きや要約のように工程が短いものであれば、数週間で作業時間の変化が見える場合があります。複数の部署をまたぐものや既存システムとつなぐものは、それより時間がかかると考えておくほうが安全です。いずれの場合も、開始前に元の作業時間を測っておかないと後から効果を説明できません。
この記事を書いたチーム
合同会社TokyoScaler ビジネス開発部
Google Cloud Partner(Google Workspace正規代理店)として、中小企業・スタートアップのIT環境整備・DX・AI導入を支援するメンバーが、現場の知見をもとに執筆しています。