01精度が出ないとき、進む先は3つ
精度が出ないと分かったあとの進む先は、次の3つのどれかです。上げるか、やめるか。この二択のあいだに「人が補う形にする」があり、そこまで並べて初めて選べるようになります。
| 進む先 | 選ぶのはどういうときか | 最初にやること |
|---|---|---|
| 精度を上げる | 間違いの原因が、渡した資料・探し方・指示のどれかにある | 安い直し方から順に試して、同じ例で測り直す |
| 人が補う形にする | 人がやっても判断が割れる間違いや、めったに出ない例外が残る | 人が確認する場所と、確認にかかる時間を決める |
| この業務ではいったんやめる | 直し方を一巡しても、いま人がやっている水準に届かない | 測るのに使った例と、間違いの記録を残す |
3つのどれに進むかは、いま残っている間違いの種類で決まります。だから、精度の相談は、間違いを集めて分けるところから始まります。先に直し方を決めてしまうと、原因と関係のない場所に費用が向かうことがあります。
02モデルの乗り換えで直る間違い、直らない間違い
最初に検討したくなるのは、たいていモデルの乗り換えです。新しいモデルの話題は次々に流れてくるので、自然な流れです。実際、乗り換えで直る間違いもあります。ただ、作る側から見ると、それは一部です。原因がモデルの外にあると、替えても同じところで外します。
- 渡した資料に、答えがそもそも書かれていない
- 資料には書いてあるのに、探し方が業務に合っていなくて拾えない
- 指示が曖昧で、何を出せば合格なのかがAIに伝わっていない
- 人がやっても判断が割れる問いを、AIに投げている
この4つは、モデルの賢さの問題ではありません。しかも原因が外にあるとき、新しいモデルは間違いをよりもっともらしい文章で書くので、かえって気づきにくくなることがあります。
「AIは使っているうちに賢くなる」ともよく言われます。ただ、業務向けの設定では入力した内容は学習に使われないことが多く、放っておいて上がることは、まず期待できません。直すのは人の作業です。逆に、渡した資料が古びると、何もしていないのに下がることはあります。
03間違いの数え方と分け方
直し方を決める材料は、間違いの実例です。集め方と分け方を先に決めておくと、ここは半日から数日で終わります。
どの間違いを、いくつ集めれば足りますか
評価用の試験問題を、先に用意する必要はありません。実務でAIの出力を直した例、使えなかった例が、そのまま材料になります。まず20件ほど集めるところからです。毎日使っている業務なら、1〜2週間分をさかのぼれば集まることが多いです。そのとき、AIが何を出したかだけでなく、本当はどうあるべきだったかを横に書き添えます。この20件が、直し方を試すたびに測り直す物差しになります。
間違いはどう分けますか
集めた例を、次の4種類のどれかに置きます。どちらとも取れる例は出てきますが、どの種類が多いかが分かれば十分です。
| 間違いの種類 | よくある見え方 | 効く直し方 |
|---|---|---|
| 資料に答えがない | 聞かれたことの答えが、渡した資料のどこにも書かれていない | 資料を足す・整える。AIの設定をいくら触っても直らない |
| 答えはあるのに拾えない | 資料には書いてあるのに、別の箇所を引いて答える | 探し方と渡し方を直す。資料の分け方、検索の範囲 |
| 指示と基準が曖昧 | 日によって答えの形が変わる。求めた形と違うものが出る | 指示を書き直す。良い例と悪い例を指示に入れる |
| 人でも判断が割れる | 担当者2人に同じ問いを出しても、答えが分かれる | どの直し方でも直らない。人が補うか、対象から外す |
「精度◯%」は、どう測ればよいですか
正解率を1つ出して終わりにすると、業務で痛い間違いがその中に埋もれます。間違いには、見逃す方向と、余計なものを出す方向があります。契約書の確認なら、問題を見逃すほうが痛い。問い合わせの返信案なら、事実と違う内容を出すほうが痛い。どちらが痛い業務なのかを先に決めて、痛い側の間違いを数えます。
どこまで届けば合格にするかは、満点ではなく、いま同じ作業を人がやったときの水準に置きます。置き方と測り方はAI PoCの本番化の「合格ラインは、いま人がやっている水準に置く」にまとめています。
04精度の直し方は、安くて戻しやすい順に
多数派が「人でも判断が割れる」以外の3種類なら、精度はまだ上げられます。直し方は、安くて戻しやすいものから順に試します。費用のかかる方法ほど効きそうに見えますが、効く相手が違うだけです。
| 直し方 | 効く間違い | 手間の目安 |
|---|---|---|
| 指示を書き直す | 指示と基準が曖昧 | 時間単位。書き直してすぐ測り直せる |
| 良い例と悪い例を指示に足す | 指示と基準が曖昧 | 時間単位。実例は集めた20件から選べる |
| 渡す資料を整える | 資料に答えがない/答えはあるのに拾えない | 日〜週単位。古い版の削除と重複の整理から |
| 探し方を直す | 答えはあるのに拾えない | 日単位。作りによっては開発側の作業になる |
| モデルを替える | 上の直し方を試したあとに残ったもの | 切り替え自体は短い。手間の中心は測り直し |
| 追加学習(ファインチューニング) | 言い回しや形式の癖 | 週単位から。データの用意と検証が要る |
直し方は1つずつ試す
2つ同時に変えると、どちらが効いたのか分からなくなります。1つ変えるたびに、同じ20件で測り直してください。手間に見えますが、効かない方法を早く捨てられるので、結局は近道になることが多いです。
表の手間は目安で、仕組みの作りによって幅があります。それでも順番の考え方は変わりません。上の2つは自社だけで試せて、その日のうちに結果が見えます。外注で作ったものでも、指示文が自社側にあるなら、ここまでは自社で動けます。
追加学習は、いつ検討しますか
順番としては最後です。理由は3つあります。費用と期間が他の直し方より大きいこと。学習用のデータを揃える作業が別に発生すること。そして、追加学習で直りやすいのは言い回しや形式の癖が中心で、知識が足りない間違いは資料側の仕事だからです。表の上から試して、残った間違いが癖の問題に絞れたときに、はじめて候補になります。
05精度を追うのをやめて、人が補う形にする判断
ここまでの直し方を試しても、残る間違いはあります。人がやっても判断が割れる問いと、めったに出ない例外です。この2つは、直し方を重ねても、費用に見合うほどは減らないことが多いです。そこで、精度を追うのをやめて、人が補う工程を置く形を選べます。人が補う形は、手が尽きたあとの妥協ではなく、最初から選べる設計の1つです。
| 形 | 向いているとき | 残る手間 |
|---|---|---|
| 引っかかったものだけ人が見る | 大半は型どおりで、例外が絞り込める | 引っかける条件の手入れと、確認する人の時間 |
| 全部を下書きとして人が仕上げる | 最後の判断を人が持つべき業務。社外に出る文面など | 全件に人の時間がかかる。ゼロから書くよりは短い |
全件を人が見直す形になると、自動化した意味がなかったように見えます。実際には、ゼロか100かでは測れません。8割を自動で通して2割を人が見る形なら、手が動くのは全件を人がやっていたときの一部です。効果が残っているかどうかは、人が直した件数を数え続ければ分かるので、この集計だけは残しておく価値があります。
人が補う形にも費用はあります。確認する人の時間が毎月かかり続けるので、減らせた時間から差し引いて見てください。差し引いた残りがわずかなら、やめる判断に進みます。
06やめる判断と、そのとき残すもの
直し方を一巡して、人が補う形にしても、補う手間のほうが元の作業より重い。そうなったら、この業務ではいったんやめる判断です。やめるのは、この業務1つに限った話で、AI全体の話に広げる必要はありません。同じ仕組みでも、業務が変われば間違いの種類は変わります。やめるときに残すのは、次の3つです。
- 測るのに使った20件と、あるべき答え
- 間違いを4種類に分けた結果
- どの直し方で、何がどれだけ変わったかのメモ
この3つを残しておくと、次にモデルや仕組みが変わったとき、同じ20件を流すだけで再開の判断ができます。作り直しではなく、測り直しで済みます。やめると言い出す役を、始めた人と分けておく話と、使った費用を続ける理由にしない話は、AI PoCの本番化に書いたとおりです。
07決める人に出す1枚
改善を続けるにも、人が補う形にするにも、やめるにも、たいてい決める人への説明が要ります。どの結論でも、出す1枚は同じ形で足ります。
| 項目 | 書くこと |
|---|---|
| 集めた間違い | 件数と、4種類それぞれの内訳 |
| 試した直し方 | 何を変えて、同じ20件のうち何件が直ったか |
| 残っている間違い | 種類と、業務でどれだけ痛いか |
| 提案する方向 | 上げる・人が補う・やめるのどれか。理由を1行 |
| かかるもの | 続ける場合の費用と、人が補う場合の毎月の時間 |
20件でも、種類で分かれていれば判断の材料になります。件数と種類が揃っていれば、決める側が「いつまで続くのか」を確かめる必要もありません。説明が一度で通れば、「もう少し様子を見る」で持ち帰りになる回数も減ります。
08まず、AIが間違えた例を20件集めることから
今週やることは3つです。どれも、AIの設定を触らずに始められます。
- 01実務でAIの出力を直した例・使えなかった例を20件集め、あるべき答えを書き添える
- 0220件を4種類に分けて、どの種類が多いかを見る
- 03多数派に効く直し方を表から引いて、いちばん安いものを1つ試す
そもそもどの業務にAIを使うかを選び直す話はAIに任せる業務の選び方に、外注先との契約や進め方の話はAIエージェント開発の外注にまとめています。
当社は業務の自動化とAIエージェントの受託開発を行っています。集めた間違いを一緒に分類して、どの方向が良いかを判断するところだけでも構いません。精度を追わないほうがよい、という結論になることもあります。必要でしたらお問い合わせからお声がけください。
09よくある質問
Q. 精度は何%あれば実用になりますか
業務をまたいで使える合格点はありません。比べる相手は一般の数字ではなく、いま同じ作業を人がやったときの水準です。人の作業にも間違いはあるので、そこを測ると、必要な水準が思っていたより低いこともあります。もう1つ、同じ90%でも、見逃しの10%と余計な出力の10%では業務での痛さが違います。どちらが痛いかを先に決めてから、その側の数字で判断してください。
Q. AIは使っているうちに自分で賢くなりますか
業務向けの設定では、入力した内容は学習に使われないことが多く、放っておいて上がることは、まず期待できません。精度が変わるのは、人が指示や資料を直したときか、提供元がモデルを入れ替えたときです。モデルの入れ替えは自社の都合と関係なく起きるので、手元に測る例を持っておいて、入れ替えのあとに同じ例で測り直すと、影響にすぐ気づけます。
Q. もっともらしい間違い(ハルシネーション)は無くせますか
ゼロにする方法は、いまのところありません。減らす方法はあります。答えの根拠になる資料を渡すこと、どの資料を根拠にしたかを出力に含めさせること、資料にないことは「分からない」と答えさせることです。そのうえで、間違いが残っても業務が壊れないように、痛い業務では人が確認する工程を置きます。
Q. 外注で作ったAIの精度が出ないとき、開発会社に何を頼めばよいですか
改善の作業を頼む前に、間違いの分類を一緒にやることを頼んでください。分類の結果が共有できていると、追加の見積もりがどの間違いに対する、どの直し方なのかを話せます。金額の根拠と、どこまでやったら終わりにするかを決める土台も、この分類です。指示文を自社で触れる契約なら、指示の書き直しまでは自社で試せます。
この記事を書いたチーム
合同会社TokyoScaler ビジネス開発部
Google Cloud Partner(Google Workspace正規代理店)として、中小企業・スタートアップのIT環境整備・DX・AI導入を支援するメンバーが、現場の知見をもとに執筆しています。